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夏の扉

花月小鞠のYouTubeチャンネル月子堂にて使用した台本です。

ボイスドラマはこちら

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配役 ♂2♀3

所要時間 ~20

 


登場人物
塚本一誠(つかもと いっせい)
♂  
 主人公。特にこれといって目立った特徴のない普通の男子高校生。17歳。
 よく幼馴染のみちると一緒に登下校をしている。帰宅部。
 わりとなんでも受け入れるタイプ。
園原みちる(そのはら)

 一誠の幼馴染。元気っ子。一誠同様帰宅部だが、体を動かすのは好き。
 いつもにこにこしていて、食べることも好き。ちょっぴり天然。
 お人好しのため、よく誰かに頼まれごとをされている。
乙華(おとか)

 水の世界の城で暮らすお姫様。おっとりしていて、おしとやか。
 姫として表に出るときは微笑みを絶やさないが、純粋で表情豊か。
 人間の世界から来たという一誠に懐く。

 

珊瑚(さんご)

 乙華に仕えている。キリっとしていて、自分にも周りにも厳しい。

渚(なぎさ)

 乙華に仕えている。眠そうにしていて、自分にすごく甘い。珊瑚より背は高い。


あらすじ

 学校の不思議な噂としてみちるに聞いた「夏の扉」。
 偶然その扉を見つけた一誠は、水の世界でお姫様の乙華と出会う。



役表

一誠:
みちる:
乙華:

珊瑚:

渚:

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【通学路・朝】


 駆け寄るみちる。足音。

 


みちる「一誠!」

一誠 「ん? あぁ、みちる」

 


 みちるが一誠に追いつくと、ふたりで並んで歩く。

 


みちる「どうして先行っちゃうのよ」

一誠 「お前が寝坊するからだろ?」

みちる「家は隣なんだから待っててくれたっていいじゃない」

 

一誠 「待ってたらお前急がねぇだろ」

 

みちる「へへへ……まぁそれはさておき」

 

一誠 「さておくな」

 

みちる「ねぇ、一誠。夏の扉って知ってる?」

 

一誠 「夏の扉?」

みちる「うん。昨日友達に聞いたんだけどね、うちの高校に謎の扉が現れるんだって。
    その扉の先には、異世界が広がってるとか!」

一誠 「へぇー……なんで“夏”の扉なの?」

 

みちる「え? なんでだろ。夏にしか出ないんじゃない?」

 

一誠 「なんか曖昧だな」

 

みちる「だってちらっと聞いただけだもん。
    でもちょっと気にならない? 今度一緒に探そうよ」

 

一誠 「はいはい」

 

みちる「へへ、約束ね」

 

一誠 「わかったよ。それにしても、うちの高校にもそういうのあったんだな」

 

みちる「ねー。あたしも初めて聞いた」

 

一誠 「探して見つかるもんなのか?」

 

みちる「探さないことには見つからないでしょ?」

 

一誠 「そりゃそうだけど」

 

みちる「じゃあさ、今日の放課後――はだめだ」

 

一誠 「何かあるのか?」

 

みちる「うん。先生が頼み事あるんだって」

 

一誠 「またお前はそうやって」

 

みちる「別にいいでしょー。頼ってもらえるのは嬉しいし、困ってる人がいたら力になりたいもん」

 

一誠 「ま、お前らしいな」

 

みちる「へへ。ってことで一誠、今日の放課後」

 

一誠 「あぁ。先に帰って――」

 

みちる「待ってて?」

 

一誠 「……はいはい」

 

みちる「へへ、ありがとう。約束ね!」

【学校教室・夕】


みちる「じゃあ行ってくるね」

 

一誠 「あぁ。行ってらっしゃい」

 

みちる「ちゃんと待っててよ?」

 

一誠 「わかってるって。早く行け」

 

みちる「はーい」

 


 みちるが教室を出る。
 誰もいなくなった教室。

 


一誠 「つっても、暇だしなぁ。
    腹減ったし売店でも行ってこようかな」

【学校廊下・夕】


 廊下を歩いていると、少し見えにくい場所に見知らぬ扉。
 (イメージ的には階段下の壁あたり)

 


一誠 「ん? ……扉、だ」

【回想】

みちる『ねぇ、一誠。夏の扉って知ってる?』

一誠 『夏の扉?』

みちる『うん。昨日友達に聞いたんだけどね、うちの高校に謎の扉が現れるんだって。
    その扉の先には、異世界が広がってるとか!』

【回想終】

【学校廊下・夕】


 扉の前に立つ一誠。

 


一誠 「いや、まさかな。
    でもこんなところに扉なんてあったか?」

一誠 「……」(どうするか悩んでいる様子)

 扉を開ける。
 そこには、水槽のような場所。

 


一誠 「えっ。水の中?
    どういう仕組みだ……?」

 


 扉の向こうに手を入れる一誠。

 


一誠 「うお、ちゃんと水の感触する。
    入ってみるか……?」

 


 少し考える。

 


一誠 「……よし」

 

 一誠が息を止めて、扉の向こうへ一歩踏み出す。
 扉が勝手に閉まる。

 

 息を止めたまま、焦る一誠。
 扉は開かない。

一誠 「ん!?
    んん、んんん……!」

 


 一誠は気を失う。

【乙華の部屋】


 一誠が目を覚まし、目の前に乙華。
 一誠はベッドに寝かされている。

 


乙華 「あ……目を覚ましましたか?」

 

一誠 「え? 誰、ですか。それにここは……?」

 

乙華 「乙華と申します。ここはわたくしの部屋です」

 

一誠 「部屋? ……あ、俺は一誠っていいます」

 

乙華 「一誠様とおっしゃるのですね」

 

一誠 「あ、いや、様はつけなくていいです」

 

乙華 「わかりました。それでは、一誠さんと」

 

一誠 「はい。あの、それで俺はどうして乙華さんの部屋にいるんですか?」

 

乙華 「倒れているところを見つけたんです」

 

一誠 「倒れて……? あぁ、俺溺れちゃったんですよね。
    助けてくれてありがとうございました」

 

乙華 「溺れた……。
    あの、もし間違っていたらおっしゃって欲しいのですが……」

 

一誠 「はい」

 

乙華 「あなたは、人間なのですか?」

 

一誠 「は?」

 

乙華 「あっごめんなさい。説明いたしますね。
    ここはアクアリオと言って、海底世界の国のひとつなのです。
    あなたの暮らす人間の世界とは違う世界です」

 

一誠 「海底世界」(驚いたように)

 

乙華 「はい! 人間の方がいらっしゃることなんて、滅多になくて……わたくし、初めてお会いしました。
    もしかして、扉からいらしたんですか?」

 

一誠 「は、はい。そうです。
    ……本当に異世界に来たんだ(独り言のように)」

 

乙華 「扉が現れたんですね……!
    あの扉も、伝説の扉と呼ばれていて、滅多に現れないそうなのです!」

 


 乙華が興奮したように一誠を見つめる。

 


乙華 「それであの、もしよろしければ、人間の世界のことを教えていただけませんか?」

 

一誠 「……はい。俺でよければ」

 

乙華 「ありがとうございます! 嬉しいです。
    それでは、庭園の方でお茶をしながらお話するのはいかがですか……?」

 

一誠 「庭園、ですか?」

 

乙華 「はい! ご案内いたしますね」

 

【庭園】


 窓から見える外は水中になっている。
 庭園の中にお茶をするスペース(テーブル等)が置いてある。

 


乙華 「こちらです」

 

一誠 「水の中に見えるんですが……」

 

乙華 「あ、言い忘れておりました。

    水の中ではありますが、人間の方でも呼吸はできるようになっているのです」

一誠 「え、そうなんですか?」

乙華 「はい。ですので、おそらく先程も溺れたのではなく、

    息を止めていたせいで気を失ってしまったのかと」

一誠 「そ、そうだったんだ」

 

乙華 「ふふ、実際に試してみてください。どうぞこちらへ」

 

一誠 「んっ……」

 


 水中である外に思い切って出てみる。

 


一誠 「あ、本当だ」

 

乙華 「ふふ、息ができますでしょう?」

 

一誠 「はい」

 

乙華 「それでは、紅茶のご用意をしてまいりますね。

    そちらへお掛けになって少しお待ちください」

 

一誠 「あ、はい」

 


 水中の庭園を見回す。

 


一誠 「……すげぇな。本当に息ができる。
    完全に水の中なのに」

 

 珊瑚と渚が現れ、珊瑚は剣を一誠に向かって突き出す。

 


珊瑚 「貴様、何者だ」

 

一誠 「え?」

 

珊瑚 「何故人間がここにいる」

 

一誠 「な、何故? えっと、扉から入ってきて」

 

珊瑚 「扉だぁ?」

 

一誠 「は、はい」

 

珊瑚 「扉とはどういうことだ。具体的に説明しろ」

 

渚  「珊瑚~。とりあえず剣は下ろして、ちゃんと話聞いてあげなよ」

 

珊瑚 「渚がそう甘いことを言うから隊の者たちも気を抜き、

    このような人間が城へ入ってきてしまうんだ」

一誠 「城?」

 

渚  「いやぁ、警備はちゃんとしてると思うよ~?」

 

珊瑚 「ふん。それで、貴様はどうやって城へ入ってきた」

一誠 「えっと、扉を開けたら水の中で、息ができないと思ってたから溺れて気絶して、

    それで目が覚めたらここにいました」(しどろもどろに)

珊瑚 「はぁ? そんな言い訳が通用すると思っているのか」

 

渚  「嘘はついてないっぽいけどねぇ」

 

珊瑚 「しかし――」

 乙華が現れる。

 


乙華 「珊瑚、渚!」

 

珊瑚 「姫様!」

 

渚  「あ、お姫」

 

乙華 「この方はわたくしの客人です。珊瑚、剣を下ろしなさい」

 

珊瑚 「しかし姫様。これは人間で」

 

乙華 「わたくしが連れてきたのです。大丈夫ですから、あなたたちは仕事へ戻ってください」

 

珊瑚 「……承知致しました」

 

渚  「ほらやっぱり。じゃあね、お姫」

 

珊瑚 「渚! 貴様はいつもそうやって姫様を」

 

渚  「珊瑚が抜けて、隊員たちはみんな暇してるんだろうなぁ」

 

珊瑚 「……すぐに戻るぞ」

 


 珊瑚と渚が立ち去る。

 


一誠 「……あの」

 

乙華 「ごめんなさい。どうか珊瑚を悪く思わないでください。
    彼女は隊長として城を守ろうとしたのです」

 

一誠 「いや、それはいいんですけど。

    乙華さんって、姫なんですか?」

 

乙華 「……はい。わたくしはこの国の姫でございます」

 

一誠 「へぇー」

 

乙華 「あの、でも、どうか態度を変えられないでください。あなたとは仲良くしたいのです」

 

一誠 「そ、それは別にいいですけど」

 

乙華 「……それでは、敬語もなくしていただけませんか?」

 

一誠 「え!?」

 

乙華 「だめでしょうか」

 

一誠 「い、いや。だめじゃない」

 

乙華 「ふふ、ありがとうございます」

 

一誠 「乙華さんは敬語のままなの?」

 

乙華 「……癖なのです。許してください」


 長めの間。
 しばらく話すふたり。

 


乙華 「はんばあがあ……!(ハンバーガー)
    ここにはない食べ物ですね。とっても美味しそうです!」

 

一誠 「たまーに学校帰りに食べる程度だけどな」

 

乙華 「こうこう(高校)というところにも、ぜひ行ってみたいです。
    一誠さんのお話を聞いていると、とっても楽しそうで……」

 

一誠 「じゃあ来ればいいよ。
    ……あ、でも人間の世界に来ることはできないのか?」

 

乙華 「……はい、行けません。
    わたくしはこの国の姫ですし、それに――水がないと、生きていけないのです。
    ここの水は人間の方には影響ありませんが、わたくしたちにとっては必要不可欠なのです」

 

一誠 「そう、だったんだ」

 

乙華 「はい。……一誠さん」

 

一誠 「ん?」

 

乙華 「ここに、残る気はございませんか?」

 

一誠 「え?」

 

乙華 「ここは人間にとっても快適な場所になっているはずです。
    はんばあがあ(ハンバーガー)はないかも知れませんが、食事だってお口に合うはずです。
    城で暮らすのが嫌でしたら、街の方にお家をご用意いたします。ですから――」

 

一誠 「……乙華さん」

 

乙華 「人間の方だからこうして言っているのではないのです。
    わたくしは――どうしましょう」

 

一誠 「乙華さん?」

 

乙華 「離れがたく、なってしまったのです」

 

一誠 「……っ」

 

乙華 「一誠さん……」

 

一誠 「うん。俺も、離れがたいって思ってる」

 

乙華 「でしたら」

 

一誠 「でもだめなんだ。幼馴染と、約束してて」

 

乙華 「約束?」

 

一誠 「あぁ。夏の扉を一緒に探そうって」

 

乙華 「ここに来た時の扉のことですか?」

 

一誠 「……まぁ、うん。それはもう見つけたけど」

 

乙華 「はい」

 

一誠 「それと、もうひとつ。待ってるって約束したんだ。
    俺が教室にいなかったら、きっと心配する」

 

乙華 「それは――戻らないといけませんね」

 

一誠 「うん。ごめん、乙華さん」

 

乙華 「いえ、いいのです。……いいのです」

 

一誠 「乙華さん」

 

乙華 「あの扉は、強い想いによって現れるという伝説の扉なのです。
    その約束があるのでしたら、会いたい気持ちがあるのでしたら、すぐに帰れるはずです」

 

一誠 「そう、なんだ」

 

乙華 「ええ。戻りましょう、一誠さん」

 

一誠 「うん」

 


 ふたりは立ち上がり、庭園を出る。

【扉の前】(城の敷地内だけど外のイメージ)

 

 向かい合うふたり。


一誠 「乙華さん」

 

乙華 「はい」

 

一誠 「また来ます」

 

乙華 「ふふ、扉は伝説だと言ったでしょう? 滅多に現れません」

 

一誠 「でも会いたいっていう強い想いがあれば、現れるんだろ?」

 

乙華 「……っ」

 

一誠 「絶対会えるよ」

 

乙華 「一誠さん……!」

 

一誠 「乙華さん」

 


 一誠は乙華を抱きしめる。
 そしてゆっくりと身体を離す。

 


一誠 「じゃあ、また。乙華さん」

 

乙華 「ええ、また」

 


 一誠が扉の向こうへ行き、扉が閉まった。
 珊瑚と渚が後ろからやってくる。

 


珊瑚 「……姫様」

 

渚  「扉、出したのお姫でしょ?」

 

乙華 「どうでしょう。……人間に想いを募らせすぎてしまったのかも知れませんね」

 

渚  「じゃあまた会えるね」

 

珊瑚 「姫様の会いたい人ならば歓迎する」

 

乙華 「ふふ、そうですね。絶対に会えます……きっと、また」

【学校廊下・夕】


 扉から出ると、そこは元の場所。
 扉はなくなっている。

 


みちる「一誠!」

 

一誠 「あ……みちる」

 

みちる「まったく、どこ行ってたのよ。
    教室にいないから心配したじゃない」

 

一誠 「ああ、ごめん。
    ちょっと売店に行って――」

 扉がないのを確認する。

 


みちる「ん? どうかした?」

 

一誠 「夏の扉」

 

みちる「へ?」

 

一誠 「いつにしようか。一緒に探すんだろ?」

 

みちる「え、うん! でも一誠から言ってくるなんてなんか意外。
    なんでも付き合ってはくれるけど、一誠ってそういうのあんまり信じないタイプでしょ?」

 

一誠 「いや、そんなことない。信じてるよ」

 

みちる「ふーん?」

 

一誠 「今日はもう遅いから帰ろう」

 

みちる「うん!」

 


 ふたりは歩き出す。

 


一誠 「絶対に会える……きっと、また」

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